心の「ボーダーライン」 [読書(小説)]
集英社文庫「ボーダーライン」(真保裕一)を読みました。時間が取れなかったので、しば
らくぶりで小説が読めて嬉しい!
本も入手してから、2ヶ月くらいそのままでしたので、ひとしおです。
〔内容〕
物語は、夢だけを追ってロスへ渡米した主人公サム・永岡が、ひょんな偶然から日本の
信販会社に雇われて私立探偵として暮らします。めったにない東京本社TOPから受けた
依頼は、写真の日本人青年を探してほしい、というものでした。
ところが、調べ始めると、その写真をとった人の行方が知れず、さらにきな臭い殺人の
話が、青年が行くどこにもついて回ります。地元の警察は、青年は握手でもするかの
ように人を殺すといいます。
メキシコ国境近い町で、予想外に早く会えた青年から、いきなり銃撃され、命からがら逃げ
帰りると、青年の父親と名乗る人物が現れます。父親は、青年を我が手にかけようと、
信販会社の関係会社重役を辞職して、アメリカまで追いかけてきたのでした。その思いを
綴った手紙を持って娘(青年の妹)まで現れて、父親を殺人者にしないよう、あらためて
依頼を受けます。会社を通した正式な依頼ではありませんでしたが、その手紙の心と、
娘の思いを知り、サムの上司関口も賛成します。
サムは結局間に合わず、父親は息子に銃口を向けたままはらはらと涙を流し、息子は
笑顔で父親の額に弾丸を撃ち込むのでした。
最後はサムが業務命令の範囲を越えて、単身息子グループのアジトに乗り込み、
復讐というより父親の思いを代わりに遂げようとして、銃口を向けますが、やはり
撃てずに、息子は遅れて来た警察に逮捕され、刑務所で死刑宣告を受けます。
残虐な息子に、それでもサムは父親の思いを告げようと、面会を申し入れ続ける
のでした。
〔感想〕
この小説では、表向きなにも解決していません。父親は息子に撃たれて命を落し、息子は
刑務所に入っても人の痛みを感じることなく、自分に都合がいいように、同房の2人と警察
一人を怪我させて、望んでいた独房に入ります。
小説の中では、生まれた時からの悪人というのはいて、どんな教育や言葉でも、その性根
を変えられない、としています。しかし、人の痛みを知ることこそが、人としてのボーダーラインを
超えないか、戻ってこれるカギであると暗示している、と私は感じました。
主人公サムが、生まれ来る自分の子どもにも、そして前述の刑務所内の、自分に銃口を
向けた他人の息子にも、話し掛け続けようと考えたことは、そのことではないでしょうか。
息子が子どもの頃、父親は、なぜ虫を殺してはいけないかを、理屈で説明して、違う理屈
を、(この場合は隠れてやればいい、と)覚えてしまったかもしれません。
アメリカで、命をかけて、息子に伝えようとしたことこそ、父親として、あるべき姿であり、
サムは、そして私も、その姿に打たれました。
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