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心の「ボーダーライン」 [読書(小説)]

集英社文庫「ボーダーライン」(真保裕一)を読みました。時間が取れなかったので、しば
らくぶりで小説が読めて嬉しい!
本も入手してから、2ヶ月くらいそのままでしたので、ひとしおです。

〔内容〕
物語は、夢だけを追ってロスへ渡米した主人公サム・永岡が、ひょんな偶然から日本の
信販会社に雇われて私立探偵として暮らします。めったにない東京本社TOPから受けた
依頼は、写真の日本人青年を探してほしい、というものでした。

ところが、調べ始めると、その写真をとった人の行方が知れず、さらにきな臭い殺人の
話が、青年が行くどこにもついて回ります。地元の警察は、青年は握手でもするかの
ように人を殺すといいます。

メキシコ国境近い町で、予想外に早く会えた青年から、いきなり銃撃され、命からがら逃げ
帰りると、青年の父親と名乗る人物が現れます。父親は、青年を我が手にかけようと、
信販会社の関係会社重役を辞職して、アメリカまで追いかけてきたのでした。その思いを
綴った手紙を持って娘(青年の妹)まで現れて、父親を殺人者にしないよう、あらためて
依頼を受けます。会社を通した正式な依頼ではありませんでしたが、その手紙の心と、
娘の思いを知り、サムの上司関口も賛成します。

サムは結局間に合わず、父親は息子に銃口を向けたままはらはらと涙を流し、息子は
笑顔で父親の額に弾丸を撃ち込むのでした。

最後はサムが業務命令の範囲を越えて、単身息子グループのアジトに乗り込み、
復讐というより父親の思いを代わりに遂げようとして、銃口を向けますが、やはり
撃てずに、息子は遅れて来た警察に逮捕され、刑務所で死刑宣告を受けます。

残虐な息子に、それでもサムは父親の思いを告げようと、面会を申し入れ続ける
のでした。

ボーダーライン

ボーダーライン

  • 作者: 真保 裕一
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2002/06
  • メディア: 文庫

〔感想〕
この小説では、表向きなにも解決していません。父親は息子に撃たれて命を落し、息子は
刑務所に入っても人の痛みを感じることなく、自分に都合がいいように、同房の2人と警察
一人を怪我させて、望んでいた独房に入ります。

小説の中では、生まれた時からの悪人というのはいて、どんな教育や言葉でも、その性根
を変えられない、としています。しかし、人の痛みを知ることこそが、人としてのボーダーラインを
超えないか、戻ってこれるカギであると暗示している、と私は感じました。
主人公サムが、生まれ来る自分の子どもにも、そして前述の刑務所内の、自分に銃口を
向けた他人の息子にも、話し掛け続けようと考えたことは、そのことではないでしょうか。

息子が子どもの頃、父親は、なぜ虫を殺してはいけないかを、理屈で説明して、違う理屈
を、(この場合は隠れてやればいい、と)覚えてしまったかもしれません。
アメリカで、命をかけて、息子に伝えようとしたことこそ、父親として、あるべき姿であり、
サムは、そして私も、その姿に打たれました。


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