敵意ある「密告」の行方 [読書(小説)]
真保裕一「密告」(講談社文庫)を読みました。
〔コメント〕
出てくる人はみんな、自分のことばかり考えていてみにくいし、弱いし、過去に
栄光はあっても今は輝いていないし、、、、ストーリ展開は、なにを「密告」したと
言われているのか、中盤を過ぎてもさっぱりわからないし。
自分の心にもありそうな、生きるための、愛するための弱さを目の当たりにして、
爽快感がまったくないんですが、かえって、自然で、ほっとするような気もしました。
だれもが、それほどは強くはない。
将来の安定を求めて、右往左往している。だから、天下り先を探すためには、
警察官としての自覚や、かつての心の栄光を捨てる。
自分の思いを素直に表現できず、恋のライバルを蹴落とすような「密告」をしてし
まう。それによって、かえって人としてさげすまれ、恋人は去っていく。ライバルの
妻になっても家庭内の不和に入り込むように、もう一度寄って行こうとする。
恋人にしても、かつて自分から表現することもなかった。去っていったのは、許せ
なかっただけではなく、選んだ夫のほうが将来性があると思ったから。再会した
今も、寄ってくる男の気持ちを利用して、夫の浮気を調べさせる。そんな相手「あ
なたの優しさは昔と変わらないわね」と気を引くような事を言う。
警察と市長と団体との癒着、警察と記者クラブとの馴れ合いと、圧力のかけあい
による情報操作。
〔汚職の誘惑に負けない〕
どろどろな中で、輝く言葉がひとつありました。
密告者として警察から排除するために、無理やりだされた逮捕状を取り下げるよ
う頼むシーン。逮捕状があるままで、身の潔白を証明するには、事故目撃の偽
証言をした関係者のある人の過去をあばくことになる。
「あの女は、公金に手をつけたんだぞ。なぜそんなやつを庇おうとする。」
「彼女は警察官ではない。だが、あなたは警察官だ。自らの身を厳しく律しなけれ
ばならない立場にある。それだけですよ。」
そして、ストーリー全体で、敵意ある「密告」がどれほど本人につらく跳ね返って
くるのかが示されていました。
生きるすべにルールはありませんが、立場を知り、自らの身を厳しく律しなけれ
ばならないのは、だれもが同じではないでしょうか。
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