『連鎖』にくしみでなく、幸せを [読書(小説)]
『連鎖』(真保裕一・講談社文庫)を読みました。
食品Gメンという、耳慣れない職業の主人公、不正輸入などをあばく仕事なので、探偵ものに
近い迫力があります。観察力、証言を引き出すしかけ、仮説のたてかたなど、刑事
コロンボみたいです。
ある日、食用肉倉庫に農薬がばらまかれる事件が発生。
大学時代の友達に奪われ、結婚した昔の恋人を、奪った数日後、友は突然車で海に
突っ込んだ。記事を書くために、不正輸入を調べていたらしいことがわかる。
次から次へとおきる不可解な出来事、これらはなにか関係が・・・
展開は痛快、不思議がいっぱい、、、でも、メッセージは明確です。
食品関係のスクープを掲載して名を上げた友に嫉妬し、あえて妻を誘い、事件に
巻き込まれた後、さらに負けたくない一心で、捜査を続ければ命がないと暴力団に
脅されても立ち向かう姿は、スマートな小説全体の中で、「いじましさ」を感じます。
結局この事件は、恋人に自殺された娘の父親が、その原因となった相手に復讐
しよとして、多くの人を巻き込んだ、なんとも物悲しい『連鎖』なのでした。
巻き込まれて命を落とした企業人の娘の中学生が、恨みをはらそうと行動した後、
主人公は最後にその悲しい連鎖のむなしさを、事件を明らかにすることによって
伝えるのです。
食品輸入という国際社会を感じさせる背景の中で、このメッセージは、ちょうど
イスラエルと周辺諸国の「やられたらやり返す」戦争の連鎖を思い起こさせる、
考えさせられる作品でした。
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