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「或る「小倉日記」伝 傑作短編集(一)」 [読書(小説)]


或る「小倉日記」伝

「或る「小倉日記」伝 傑作短編集(一)」(松本清張著、新潮文庫)には、短い時間で読める、考えるヒントになる、けっして「きれいごと」ではないストーリーが8編取り上げられています。
日本経済新聞の夕刊で、松本清張氏が取り上げられていたことと、時間がない中で、短編小説なら読めるのでは、と思い立ったことから、手にとって見ました。

 人と人との関係を大切に取り上げる小説は多いのですが、頑固に、または、なにかにつかれたように人生をかけて一つのことに取り組む、そして、自分を振り返らない人生をいくつも取り上げています。

 私が高校の頃は、ひとつのことにこだわることが、大切なことだとという雰囲気がありました。あちこち手を出すのは軽いことだと。
この本では、そのこだわりがもっとも重要と見られている、学問の世界を舞台にしている小説が多く題材になっています。

いまは、柔軟な発想が大事だと言われているようです。
時代の違いでしょうか。

 松本清張氏は、頑固に生きることに、いいもわるいもコメントしていません。むしろ、いい面と悪い面を両方考えさせてくれます。気づかずに読んでいたのですが、最後の解説で、評論家の平野謙氏が、それを教えてくれました。

「世間を見返してやりたいという復讐的な希いのままに、いわば現世の栄達の代用品として学芸の世界をえらんだひとびとの前には、いつまでたっても現世のミニチュアとしての学芸の世界の側面しか扉が開かれていないのではないか。」

「ひとたびは現世的なものを超えるために学芸の世界に身を投じながら、その学芸の世界を現世的な保証に代置したいという彼らのコンプレックスの悪循環ぬきにして、ただ学芸の世界の現世的な側面だけを責めるわけにもゆかぬはずである。

しかし、彼らはついにそのことを悟らない。」

 主婦の自分に飽き足らず、ひとかどの歌人になり、高慢が嵩じて気がふれて、最後に平凡なだんなのもとに還る「菊枕」、

いったんとりたててくれた恩師が、自分の期待にこたえ切れなかったことから、逆に論客となり、歴史の学術的に立派な功をなしとげてもさびしい人生を送る「断碑」。

 そんな中で、私は違うトーンで書かれた「火の記憶」が気に入っています。

「母子家庭に育った自分に、父と一緒にいた記憶がないことに疑問を持ち、生い立ちを探ると、母や父の、人にいうのがはばかられる過去が見えてくる。
 犯罪者だった父を逃がすために、母は調べを続ける刑事に体をはる。刑事はそれが理由で、職を失う。
 刑事が他界して、母に死亡通知がとどき、母はそのはがきを保存していた。
 主人公の婚約者の女性の兄は、そのことを調べ、「女の気持ちはそんなものであろう」としめくくる。
 婚約者の女性は、「どんな人の子であろうが、もはや、私には問題ではないのだ」というふうに、兄からの手紙を細かく裂いて小説は終わる。」

平野謙氏は、この小説にはあまり触れていません。もしかすると評価が低いのかもしれませんが、この最後の婚約者の毅然とした態度が目に浮かぶようで、わたしは未来を感じました。

愛する人を助けるために女性が体当たりする、というのは、映画「007カジノ・ロワイヤル」にも、「武士の一分」にも、違う形で取り上げられています。男にとっても女にとっても複雑なテーマです


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コメント 2

これこれ!若手俳優、筒井何とかさんが
名演技で息子役をやってたんですよ
感動して本を探し、読んだ覚えがあります
松本清張は作品数がとても多く
かなり読んだように、思っていましたが
まだまだでした。(^^ゞ
by (2007-01-27 23:37) 

研航

のんべいキャサリンさん、またコメントをありがとうございました。
そうですか、この小説はドラマ化されたのですか。
静かな夜景に赤く燃える映像が、目に浮かびます。
GOOGLEで調べたら、NHKは出てきましたが、、、?
by 研航 (2007-01-28 20:48) 

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