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『八咫烏』孤独な混血が日本サッカーのシンボルに [読書(小説)]

司馬遼太郎『八咫烏』を読んで、ようやく古代日本のイメージがわいてきました。


果心居士の幻術

果心居士の幻術

  • 作者: 司馬 遼太郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1977/10
  • メディア: 文庫



神話の世界を、本当に現場に入って見届けたようです。
出てくるのは、神様ではなくふつうの人、です。

あらすじ


宮崎県日向が本拠のわだつみ族の植民地で、そこに住む人々を猿田彦さるだひこが宰領する和歌山県那智勝浦に、海が見下ろせる丘の上に独りで住んでいる八咫烏やたがらす
母は、(奈良県)宇陀うだの巫女の間でおきた、大阪府葛城筋と奈良県飛鳥筋の抗争から逃げてきた、天鎮女あめのしずめ。島根県が本拠の出雲いずも族である。

八咫烏やたがらすわだつみ族と出雲いずも族のあいの子だが、出雲いずも族の顔をしているので、わだつみ族とは認められず、差別されてつきあってもらえない。

日向本国のイワレ彦(後の神武天皇)の軍は、奈良県吉野[このあたりはヤマト盆地]に根を下ろした出雲族を降伏させて占領しようと、、北東の大阪の方から攻めたが失敗したので、意表を突いて南の山のなかを通ることにした。
八咫烏やたがらすは出雲族の言葉の通訳、そして出雲族らしい大きな体と山の中に住んだ経験を生かすことになる、案内役を命ぜられた。

初めてわだつみ族と認められて、喜び勇んで山のなかを草木をわけて、先頭を進んだ。
荷物運び兼のつらい役目も気にならず、やがて疲れたイワレ彦を背負う。

それはイワレ彦という神の乗り物になることで、宮崎県日向の本隊の人たちは、八咫烏やたがらすを大切に扱うようになる。
八咫烏やたがらすに順風が吹き始める。

山のなかで、縄文時代のようにほら穴に住む土蜘蛛つちぐも族と呼ばれる種族の酋長、一言主命ひとことぬしのみことが、鵜飼いでとったアユを恭順のしるしに届ける。
敵方の長、長髄彦ながすねひこの妹を妻に持つ、高知県土佐わだつみ族の饒速日にぎはやひの手引きで敵方に潜り込み、勝浦わだつみ族の軍のリーダー赤目彦あかめひこ一言主命ひとことぬしのみこととで、長髄彦ながすねひこにたいする降伏交渉を行う。八咫烏やたがらすは通訳をするうち、
「あいのこはどちらの族の氏神にも守られていない」
とののしられ、 「こいつを斬ってください」
と相手の言っていないことを伝える。

そして、斬られたクビが怖いのかと馬鹿にする赤目彦あかめひこを、積年の恨みもつのり、殴り殺してしまう。

目撃した一言主命ひとことぬしのみこと饒速日にぎはやひはそれぞれ、土蜘蛛つちぐもとして同じ立場にあること、子供があいの子であることから同情し、殺害をみなかったことにしたので、八咫烏やたがらすは、この功績で高級副官のような地位にのぼり、建津身命たけつみのみこと(別名、賀茂建角身命かもたけつのみのみこと)というもっともらしい名前までもらう。

出雲いずも族は巫女の信託によって生活していた。
融和のため、またわだつみ族がより優位にたてるように、宇陀の巫女とその憑き神である天照大神あまてらすおおみかみが、わだつみ族につくように説得、巫女の棟梁、天鈿女命あまのうずめのみことは、あっさり同意する。そのとき、八咫烏やたがらすが昔の友垣、天鎮女あめのしずめの子であることを見抜いたが、八咫烏やたがらすは出雲族であることをあまり知られたくないので、目をかけないでくれ、と言う。彼の孤独が伝わる。

こうして第一期のヤマト平定事業は終了、饒速日にぎはやひは出雲族の梟師たけるとなった。
そのほかの功臣、内応者も功績にあわせた職を与えられたが、八咫烏やたがらすは重職への推挙を断った。
混血児としての処世に疲れたのだろう。また孤独を選んだ。
まだなにもない原野の京都府山城に領地をかまえ、宮居をたてて住まうことを許され、やがて娘の玉依媛たまよりひめを、隣の領地の出雲族の酋長たけるに嫁がせて、領地を安泰にした。
あいの子のために、30歳まで女性に相手にされなかった八咫烏やたがらすは、結婚できたことになる。
孤独はいやせたのだろか。


小説その後の歴史へ


伝説の世界の話を、流れるような小説にしているのは、史実を自分なりの見解で解釈する、歴史作家司馬遼太郎の力量を見せられる思いです。登場人物の末裔が、不確定ですが実際の史実に近づいていきます。
賀茂建角身命かもたけつのみのみことである八咫烏やたがらすの末裔は、「賀茂」氏として、京都の神官の家となり、役行者や、陰陽師安倍晴明の師匠、賀茂忠行を生みます。下鴨神社もカモの字が違いますが、賀茂氏の関連です。

また、饒速日にぎはやひは、小知、やがて越の国との縁を見いだして「越智」氏となり、その庶流は多く長く反映し、ヤマトと愛媛県松山に、天皇家筋と長く明治になるまで縁を続けます。

もちろん、イワレ彦は、神武天皇となり、代を数えて歴史上の実在が濃厚と言われる応神天皇、そして現在の天皇家へと続きます。

植民地族の宰領、猿田彦さるだひこの妻となったのではと言われる天鈿女命あまのうずめのみことは、天照大神あまてらすおおみかみが宮崎県高天原で天の岩戸に隠れて世の中が真っ暗になったときに、踊りまくって周囲を大笑いさせ、天照大神があまてらすおおみかみを外に出して世の中を再び明るくした神話で有名だが、それは当時の巫女の存在を示しているのではないかと言われています。

小説の時代背景


また、この時代の背景もおもしろく設定されていて、土蜘蛛族は、弥生時代になって住居に屋根をつける技術を知っていても、かたくなに縄文時代の生活パターンを残してみせてくれています。今では岐阜県長良川で有名な、鵜飼いでアユをとる風習も、土蜘蛛族がもっていたものでした。

朝鮮系の出雲族は、弥生時代を象徴するように、白装束でヤマト盆地にやってきて、田を耕し、もともと土蜘蛛族の領地だったところを腕力より事実で奪って、土蜘蛛族を山に追いやります。

戦いの際にクビをとる風習のあった南方系の海族も、宮崎~鹿児島~高知~和歌山と西から東に海を通って植民地を広げたことを示しています。

天孫降臨で有名な高天原たかまがはらが宮崎にあるのも、この小説のストーリーなら話があいます。

思うところ


このストーリーが正確かは誰にもわかりませんが、古代史をこうして読ませてくれることで、歴史好きだけではなく多くの人に、日本という国がなりたっていった頃へのロマンスを想わせてくれる、貴重な小説です。
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