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『役行者』えんのぎょうじゃは日本の民間医療の祖か [読書(歴史)]

役行者(えんのぎょうじゃ)にまえから関心があって、ふと、こんな本を読んでみました。


役行者―修験道と海人と黄金伝
説

役行者―修験道と海人と黄
金伝説

  • 作者: 前田 良一
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞 社
  • 発売日: 2006/10
  • メディア: 単行本



まえから、山伏を始めた人だとは知っていました。
それ以上、まずは、本文の引用から役行者をご紹介します。

役行者さんは、公文書に名前が載っているので、実在のようです。
またの名を、役小角(えんのおづの)といいます。

漢字が多いので、名前としてわかりやすく身近にするために、さんづけで書いていきます。

役行者とは


(P27)『役行者本記』の現代語訳を銭谷武平氏の『役行者伝記集成』の 引用でご紹介しよう。(略)要約した。
 役行者は舒明天皇六年(634)1月1日、大和国葛木上軍茅原郷矢 箱村で生まれた。父は十十寸麻呂とときまろ あるいは大角といった。母は白専女 しらたおめといった。父は出雲国加茂の人で、婿養子と して大和にやってきた。母の出自は高加茂氏であった。父も母も同族 であった。父は小角がうまれたとき、離縁して出雲に帰った。
(略)天武天皇一三年(684)、51歳のとき、相模の八菅山で薬師 仏の秘法を修めた。(略)
文武天皇三年(699)、66歳のとき、葛城の神に密告され、伊豆 大島に流された。(略)文武天皇四年(700)10月、小角67歳の とき死刑を宣告された。小角は我が身はすでに仙人、わが心もすでに 仙人であると言って、刀を身に受けた。振り下ろした刀は段々に折れ 、小角の体は少しも傷つくことはなかった。(略)
文武五年(701)一月、小角六八歳のとき、罪が許され、文武天皇は 小角の労苦を慰労して黒色長冠を下賜し、国師とした。


出自ははっきり書かれています。

「薬師仏の秘法」っていうのは、東洋医学のことでしょうか。

(P14)小角の呪術は天下に鳴り響いていたと思われる。弟子だっ た広足は後に天皇の医療と薬の処方を司る典薬療の長官になっている 。 小角は広足の密告で失脚するが無実だった。(略)民衆を喜ばせたり 、不安に駆り立てたりして扇動することは禁じられていた。


弟子が天皇家で医者やっていますから、医療(時代的に東洋医学ですよね)に詳しかったのは間違いなさそう。

(P15)役行者に注目した人が民間に存在した。奈良・薬師寺の僧 景戒けいかいである。(略)『日本 霊異記りょういき』にかなり詳しく 記している。(略)八世紀から九世紀の初め頃に編纂されている。( 略)
小角は生まれながらにして賢く、博識という点では郷里の第一人者だ った。(略)常に願うこととして、五色の雲に乗って果てしなき大空 の外に飛び、仙人の宮殿で賓客とともに遊び、一億年の長寿が得られ る花園に起居して、養生の気を吸うことを願った。(略)


「養生の気を吸う」って、いまでいう導引術のことだろうか?

(P18)鬼神を自在に使役することができ、多数の鬼神に「大和国の金 峯山と葛木山の間に橋を架けよ」と命じた。神たちはみな嘆き憂えた 。藤原宮で天下を治め賜う天武天皇に、葛木山の一言主大神が人に乗 り移って「役優婆塞うばそくが天皇 の転覆を謀っている」と讒言した。天皇は役人に命じて小角を捕らえ させた。しかし、小角は験力を使うので捕らえることができなかった 。そこで、小角の母親を人質に取った。このため小角は、母親を助け るため、自ら出頭して捕らわれた。
 こうして小角は伊豆に流された。


しかし、本人の行動となると、空を飛んだり、呪術を使ったり、、、、
実際の本人は、どんなことをなした人だったんでしょう?

平安時代後期の大学者大江匡房おおえのまさふさ (1041~1111年)が、『本朝神仙伝』に「役小 角伝」を記している。(略)
小角は吉野山と葛木山の間に橋を架けようとしたという(石橋)。( 略)はなはだ短気で、怒りっぽかったという。(略)小角は工事を早 くするよう一言主神を激しく責めた。(略)「顔かたちが恥ずかしい から、昼間は工事ができない」と言ったが、小角は許さなかった。こ のため一言主神は小角が謀反を企てていると朝廷に訴えた。


怒りっぽかったらしい?

『役行者顛末秘蔵記』は、(略)小角の死後、摂津で小角にあったとい う商人が現れた。小角はいつもと違って、錫杖も持たず、鉄下駄も履 いていなかった。そこで門弟らが深仙で棺を開いて調べてみた。中に は錫杖も着衣も鉄下駄も入っていたが、小角の姿は消えていた。
こうした現象を道教では尸解仙しかいせん という。つまり、仙人になって天に昇り、永遠の生命を 得たのである。


仙人でもあったわけですか。
ということは、道教・道家の修行者でしょうか

それにしても、「妖惑」って、何したんだろう?

これはどうやら、体制側(国)からみて「妖惑」だったらしく、国にとってあまり都合がよろしくない行動をとっていた、ということのようです。

本人の記述が残っていないので、その後、役行者さんの行動を追いかけるように活動して、奈良の大仏を建立するのに大きな力となった、役行者さんより34年後の668年生まれと言われている、行基(ぎょうき)さんの行動から、筆者は、役行者さんの行動を推測することができる、としています。

行基の記録から推測する、役行者



(P59) 役行者(小角)が足跡を残したところには、行基が跡を追うように足 跡を刻んでいる。行基は小角が開基した山上ヶ岳頂上の蔵王堂(現在 の大峯山寺本堂)を修築し、吉野山にやましたの蔵王堂(現在の金峯 山寺本堂)を造営している。(略)奈良の大仏は、行基の勧進(民衆を 動員し、寄付をつのること)によって建立されたが、計画では 紫香楽宮しがらきのみやの甲賀寺に 建立される予定だった。(略)飯道山という役小角が開基した修験道の 霊山の麓にふもとに、大仏が鎮座する構想だった。


甲賀寺っていうのは、甲賀忍者の里にあります。
後の章ででてきますが、忍者の祖でもあるとの説があります。

(P61)仏教は一般民衆の苦悩を救うために伝来したのではない。(略)国 家鎮護の教えとして伝来した。(略)東大寺や法隆寺は学問寺として出 発した。僧侶になりたくても、難しい国家試験に合格しなければなら なかった。今でもそうだが、漢字がびっしり並んだ経巻など、民衆に はちんぷんかんぷんだった。
そうした中で、民衆の中に入り、民衆の苦悩を救おうとした仏教者が 奈良の都に現れた。それが行基である。仏教が内在する深遠な哲学を 説こうというのではない。困っている人があれば、話を聞いてやり、 励ましの声をかけた。病に伏している人があれば、薬を手渡し、治療 を施した。病院も安心して暮らせる社会福祉制度もあるわけではない から、多くの人が行基の周辺に集まったことだろう。それが国家には 不穏に見えた。「道路に散らばって、みだりに罪業と福徳のことを説 き、徒党を組んでよくないことを構え」というふうに見えたのだろう 。(略)行基集団が政府と関わりなく、自前で針灸、外科、按摩術など 、さらには本草薬草の類を一般大衆に施していた姿が、充分にうかが われる(略)。その行動は政府から賞賛されてもよいはずなのに、結果 としては法外の徒として指弾、弾圧を被ったのである。
こうした行為を元正天皇の詔は「妖惑」であると明言している。
さすれば、小角の「妖惑」も、福祉活動にほかならないことになる。


「妖惑」は、民衆の心や体の問題を手助けする活動だった、国から見ると、国以外の人に頼ることになり、不都合だったんですね。

まだ日本の国が定まっていなくて、国も民衆を面倒見ていないわりに、民衆の暴動を恐れていたのです。

(P65)困窮した民衆は山中に亡命した。そこには農民だけでなく、様々 な職種の人たちが駆け込んだようだ。奴隷もいれば、博打うちもいた 。兵器も隠していた。(略)寺の規律もゆるんでいた。(略)神社も 荒廃していた。
行基の「亡命集団」は「道教集団」であったようだ。(略)日本は中 国から様々な文化を学んだが、道教だけは取り入れなかったとされる 。だが、実際には道教思想が日本に入っていたことをこの(聖武天皇 729年の)詔は裏付けている。


行基さんも、そして筆者想像するに役行者さんも、道教に基づいた行動と思想があって、福祉とは東洋医学による治療だったんでしょうか。

中国ではこの時代より前に、華佗が世界で初めて麻酔を使った手術をしていますから、医療としては相当進んでいたんでしょう。

筆者の説ですが、日本にも道教が入っていたんですね。

(P69)天皇は政策を大転換したのである。行基は天皇の求めに応えた。 「行基集団」が大仏建立に動いたのである。
(略)世界最大の金銅仏である。そのためには行基の民衆動員力、財力 、それに技術力を欲したのであろう。(略)「奈良の大仏」である。


おお、行基さんは実に柔らかいですね。
国と融和して、歴史に残る事績を残したわけです。

役行者さんも、同じように、面倒見てもらえない公家ではない大勢の人々の健康を助けようとしたんでしょうか。

役行者の説明は、次回に続きます。
このあとの掲載予定記事です。

背景にある道教について


金と水銀と不老長寿


忍者と修験道と道教


修験道と陰陽師


大海人皇子 おおあまのみこと修験道


越智氏と天皇家と北畠氏


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