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「ダ・ヴィンチ・コード」女性への賛歌 [読書(小説)]

ダ・ヴィンチ・コード(上)

ダ・ヴィンチ・コード(上)

  • 作者: ダン・ブラウン
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2006/03/10
  • メディア: 文庫


ダ・ヴィンチ・コード ヴィジュアル愛蔵版

ダ・ヴィンチ・コード ヴィジュアル愛蔵版

  • 作者: ダン・ブラウン
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2005/09/01
  • メディア: 単行本


「ダ・ヴィンチ・コード」 (ダン・ブラウン著 ・ 越前敏弥訳角川文庫)
映画公開前の宣伝が、 どこに行っても目に入って、 勢いに押されてついつい読みました。

テンポのいい探求・冒険ものですが、女性を讃える物語でもあります。

今は女性が強くなっている時代です。けれどこの小説では、女性の「強さ」を讃えるの
ではなく、男にとって、女性が大切な存在であることを思い起こして、
 「女あっての男、おとこあってのおんな」
を再認識させてくれます。

私は詳しくはありませんが、キリスト教関係で「聖杯」の伝説があって、それを題材に
した本や映画もたくさんあります。
たとえば有名なスピルバーグ監督の映画人気シリーズ
 「インディージョーンズ 最後の聖戦」
は、イエスが最後の晩餐で使った「聖杯(さかずき)」を探す物語です。

この本では、「聖杯」伝説は、女性という存在を大切にする考え方だ、としています。

そして、それを脈々と数百年間受け継ぐ団体があり、レオナルド・ダ・ヴィンチは、
ある時期その総長をしていたとされていて、タイトルどおり、ダ・ヴィンチの有名な絵や
発明が、小説のもうひとつの面白さを作っています。

なぜ、女性を大切な、聖なる存在と考えるのでしょうか。

この本にちりばめられたヒントとして、一部を引用すれば、

「子宮から命を生み落とすその能力ゆえに、女性は神聖視された。まさに神だ。」

「古代には、男性は精神的に未完成であり、聖なる女性との交接によって
はじめて完全な存在になると信じられていた」

複雑な現代では、女性がその柔軟性ゆえに、社会の大切な要職に求められています。
思えばその柔軟性も、1年近くも命をおなかにだいて、子供を育てる「母性」と大いに
関係があるのではないでしょうか。理屈では子供なんか作れない、育てられないです。

なぜ「はじめて完全な存在になるか」??
このブログを読まれた方の楽しみをへらさないために、ここでは書きませんので、
小説を楽しみにしてください。

主人公、ハーヴァード大 宗教象徴学 ラングドン教授の説明がとても気に入りました。
ここは、もう一人の主人公、フランス司法警察ソフィーの、10年間の祖父との
心のわだかまりを救う、小説上も大切なくだりです。

もうすぐ公開される映画で、このような背景となる文化の説明をどう扱うか、楽しみです。


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「陰陽師 竜笛ノ巻」博雅にはかなわない晴明 [読書(小説)]

「おれは鬼神を術で操るが、おまえは、自身そのままで鬼神を動かしてしまう」(「呼ぶ声の」より)

酒を酌みかわしながら、源博雅に見つめられて目をそらす、安倍晴明の一言。

(桜のはなびらが散るはかなさを思い、人生のはかなさを思い、はかないからこそ、お前にあえて
よかった、と、博雅に言われて)

----------------------------------------------------------------
「断じて行えば鬼神も之(これ)を避く」《「史記」李斯伝から》
----------------------------------------------------------------

ということわざがあります。(Yahoo!辞書:大辞泉より)

「断固とした態度で行えば、鬼神でさえその勢いに気(け)おされて避けて行く。

決心して断行すれば、どんな困難なことも必ず成功することのたとえ」

なんのためらうこともなく、まっすぐになにかをしようとすれば、術(テクニック)を超えた力が
出せるということでしょう。

映画「ファインディング・ニモ」に出てくる、ドリーを思い出しました。

さっき会って一緒に泳いでいると、「あなた誰?ついてこないで」というくらい物忘れがひどい!

けど純真でまっすぐ、思いやりのある行動で、いわしの群れに道を尋ねたり、くじらに頼んだり
して、息子ニモをさらわれたマーリンを助けて(?)、一緒に探します。

博雅もドリーも、世渡り上手とはまったく反対です。
(この二人をならべるのは、どうかとは思うけど)

私自身も、生きる術(すべ)を学びつつ、いざという時は、心から断じて行えたら、より大きな
ことが達成できるような気がします。

その他の4編では、自分で仕込んだにもかかわらず、育てた娘の心の美しさそのままの、
”式神”形の美しさに、”悪役”芦屋道満が引き取れなかった「むしめづる姫」が心あらわれました。

陰陽師 龍笛ノ巻

陰陽師 龍笛ノ巻

  • 作者: 夢枕 獏
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/03
  • メディア: 文庫


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「ストロボ」脳裏にうかぶ、あの瞬間を積み重ねて [読書(小説)]

「ストロボ」(真保裕一・新潮社)をよみました。

「キャリアも積んだ。名声も得た。だが、俺になにが残されたというのか-。」

50才のカメラマンが、遺影をとってほしいと頼まれたのは、若いころに撮影したモデル。
またそれが縁で、自分のアシスタントと結ばれたことをあとから知った。

22才から、50才まで、必死にカメラマンとしてのキャリアをつみあげ、最後にはなにも残らなかった???

いや、ひとつだけ、間違いなく残ったもの、それは、奥さんへの感謝でした。

遺影の撮影を終えて家に帰ったとき、奥さんにシャッターを押してほしいとたのむのです。
そして、心の中でこうつぶやきます。

「それでも俺が遺影を撮ってもらいたいと思えるのは、やはり今カメラを構えているこの女しかないような気がした。」

この言葉にたどりつくまでの、数十年の人生を、
 第4 → 第3 → 第2 → 第1章
と、章番号も年齢も、さかのぼってストーリーが展開していきます。

若い時に才能にめぐまれ、才気はしり、如才なく人に接し、、、、これらがむなしくても、
このカメラマンの人生は、いい人生だったんじゃないか、こうして、ついてきてくれる人がいたのだから、、、
そう思っています。

ストロボ

ストロボ

  • 作者: 真保 裕一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/04
  • メディア: 文庫


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「発火点」父から受け継いだ「弱さ」を乗り越えて・・あらすじ [読書(小説)]

〔序盤〕
12歳の時に父親を殺された過去をもつ主人公。殺したのは、父の同級生で
自殺しかけたのを偶然助けた。体力を回復するまで、家に同居をと母と一緒
に、願った相手。

「甘えるな。辛い過去をもつのはお前だけじゃない。頑張れ。」
21歳になった頃、トラブルに巻き込まれ、警察沙汰になる。だれからものこの
言葉が、心からの善意とはとれず、反発する。

つき合っていた女性が、仕事を紹介するするときに有利になるよう、彼の過去
を仕事先にほのめかした。周囲から同情されることをもっとも嫌っていた彼は、
配慮がないと彼女から逃げ、まもなく他の女性とつきあうようになる。

同僚から「クズ」とののしられる。
「おまえは逃げてんだよ。辛い仕事や面倒くさい人間関係や世間の気詰まり
な決め事が嫌で嫌で、子供みたいにすぐ背を向けたがる。疲れるのは嫌だ。
気楽に暮らしていたい。だから仕事も女も長続きしない。」

〔中盤〕
父を殺した相手が、仮釈放になることを、取材目的の記者から聞かされる。
やがて記者から、前に付き合っていた彼女が妊娠していることも聞く事になる。

父を殺した相手に会おうとする。自分の過去に目を向け、過去を清算するため。

被害者の家族と、仮釈放の加害者にあうことは、法的に見て、許されること
ではなかったが、
「過去の事件や周囲の扱いから、いまの自分がある」
だけではなく、
「事件に巻き込まれた父の「弱さ」という性質がいまの自分にもある」
ことに、過去を見ようとする行動を通して、気づいていく。

〔ラスト〕
この事件を乗り越えることで、父から受け継いだ「弱さ」を乗り越え、主人公は
クズから真の大人の男に、そして父親になっていく。


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「発火点」人の弱さ、人をあやめること [読書(小説)]

「発火点」(真保裕一・講談社)を読みました。

発火点

発火点

  • 作者: 真保 裕一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2002/07
  • メディア: 単行本

〔コメント〕
テーマは二つ
1.人の弱さ
2.人をあやめること

誰ものぞんで、昔の仲間をあやめたりはしない。
そこにいたるのは、過去から現在にいたる、自分の感じる苦しさ。

苦しさを感じさせる周囲と環境と、感じる自分。
原因は外因と内因、二つある。どちらもとてつもなく大きい。
しかし、変えられるのは、内因、つまり自分しかない。

被害者の家族である主人公は、「クズ」と呼ばれた。周囲からの
同情に反発して、世を拗ねてくらしていた。やがて、事件に巻き
込まれた父の弱さを受け継いでいることに気づく。

誰もがもつ、「自分への弱さ」を、仮釈放になった父を殺した相手に
会うという、過去に目を向ける行動を通して、乗り越えていく。

乗り越えるのが簡単じゃない、のと同様、物語もなかなか、すっきり
進みません。けれど、3/4くらい読み進めれば、前半のグズグズ
とは比べられない、明るい開けた世界が待ってます。

〔効能?〕
・気楽なフリーターや、適職幻想から抜けられずに困っている方に
・若い娘のような女性と不倫願望のある、弱い中年男性に


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敵意ある「密告」のゆくえ(あらすじ) [読書(小説)]

〔序盤〕
いわれのない密告者あつかいを受けた萱野。もとはピストルでオリンピックを
目指すまでの選手だったが、今はそのキャリアを生かすことなく、風俗営業店
の許認可など、警察の中で役所のような仕事をしている。

ある日突然、上司の矢木沢が業者と癒着していることが新聞社に密告される。
確たる証拠もなかったが、二人の過去から誰もが萱野を密告者あつかいする。

二人の間にあった過去とは、、、
かつて、ピストルの上位者である矢木沢が、争っていた恋人美菜子を無断で
の射撃場に入れたことを嫉妬し、萱野は尾ひれをつけて新聞社に密告し、
矢木沢を追い落とした。卑劣さを許せなかった美菜子は萱野のもとを去り、
やがて矢木沢と結婚した。

夫が土日にまで外出するのは浮気だと疑っていた矢木沢の妻美菜子が、再会
した萱野に調査をたのんでいたため、接待の現場をみてしまう。逆に矢木沢に
も気づかれる。そのため矢木沢は今回の密告も萱野であることを疑っていな
かった。美菜子も今の夫である矢木沢を、萱野が再びおとしめようとしたと考え
ていた。

萱野は、八木沢美菜子に潔癖である証をたてるため、真の密告者を探そうと
して、なりふりかまわない行動に出る。恩師だった堀越の娘、幸恵が警察に
いて、自分に思いを寄せるのを都合よく情報源に使う。特ダネをえさに、新聞
記者を協力者とした。

〔中盤〕
裏を探ろうとするほど、叩けばほこりの出る警察幹部から疎ましがられ、陰湿な
警告として、引き出しの中にインクをこぼされたり、果てはおとしいれるために、
銀行口座に勝手に入金されそうになったりして、ついに、事故を起こしてしまう。
自転車を跳ね、彼に不利な目撃証言が出る。

自分が牙を剥いた警察に助ける人は誰もいない。萱野は、この窮地にも、自分
の思いを遂げるため、ひるまなかった。事故証言を故意だと信じ、証言者の身
辺を探る。

ついに、明かりが見えた。全市長選直前に最大のライバルが脱税容疑で検挙
されたことが有利に働き、厳しい選挙戦に勝った広報誌があった。現市長のそば
に写っていたのは、萱野が接待現場でみかけた男、佐久間だった。

負けた選挙候補者から、警察とその男との癒着を聞かされる。ある協会が、
長年警察署長経験者の天下り先になっていた。風俗業界の顔であった佐久
間が、協会に資金提供をしていた。矢木沢は、自分の署長に点を稼ぐため、
佐久間に接触していたのだった。

調査の中で警察手帳の力を再認識し、さらに幹部の腐敗をみて自分が警察の
一員であることを自覚した萱野は、新聞記者と袂をわかち、ひとり自らの潔白を
明かそうと行動にでる。

〔ラスト〕
美菜子のいる前で、自分の潔白と矢木沢の警察官としての罪を明かそうとして、
萱野は驚くべきことに、矢木沢の家に行く。美菜子と二人で矢木沢を待つとき、
初めて、萱野は語れなかったかつての、そしていまも変わらない美菜子への
思いを伝える。

自転車事故の件で逮捕状をとった警察と矢木沢が家を包囲したのを察した萱野
は脱出し、逆に協会に乗り込んだ。佐久間や矢木沢、そして警察OBの前で
すべてを明らかにしようとしたその時、後ろから萱野をなぎ倒したのは、幸恵の
父であり自分の恩師である、堀越警察署長だった。そして佐久間の手下に拷問
にかけられ、やがて銃口を向けられる。

萱野は諦めなかった。すきをみて110番通報する。残された矢木沢に警察の
自覚を思い起こさせ、手下から銃を奪わせる。矢木沢は手下を追い出したが、
それは、萱野への殺意からだった。

萱野は、矢木沢に言う。
「たとえ証拠がなくても、あなたがやったとはっきり感づくものがもう一人いる。」
「彼女がいます」矢木沢の妻美菜子が気づくと。

矢木沢は膝まづき、天井に向かって銃を撃ち、床に投げつける。
「もう終わりだ・・」矢木沢の心には、もともと栄光はなかった。ピストルでの栄光を、
そして自分の出世を、将来の糧にしたいだけだった。
やがて彼は遺書を書き、ビルの屋上から飛び降りた。

萱野は、真の密告者だとわかった堀越の家に乗り込む。そこで聞かされたのは、
まったく想像もつかない事実だった。密告したのは、堀越の娘、幸恵だったのだ。
矢木沢がスキャンダルで今の警察から離れれば、萱野と妻美菜子との距離が
はなれると考えてのことだった。密告が父の汚職の発覚につながりかねないことを
覚悟の行動だった。堀越にとっても、娘の行動は、信じがたかった。

幸恵は、萱野がかつて矢木沢を密告した事実をしらなかった。思いがけず自分
の言動で愛する萱野が疑われることになったことに責任を感じ、警察を辞め、
オリンピック間じかだったピストルチームも離れ、萱野に協力しようとしたのだった。

萱野の密告者探しの動機が、矢木沢美菜子への潔白の証明だったことを知っ
ていた父の堀越は、萱野に殺意をいだいていた。娘の恋焦がれる相手が
「なぜおまえなんだ」と最後までつぶやいた。

矢木沢の遺書に書かれていたのは、妻美菜子への「君をわたしたくない」という
一言だった。美菜子は萱野の気持ちを拒むことを決意していた。

矢木沢は、帰りに待ち構える堀越幸恵に視線を向けず歩き続けた。
もう一度美菜子への「夢」を見ながら。


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敵意ある「密告」の行方 [読書(小説)]

真保裕一「密告」(講談社文庫)を読みました。

〔コメント〕
出てくる人はみんな、自分のことばかり考えていてみにくいし、弱いし、過去に
栄光はあっても今は輝いていないし、、、、ストーリ展開は、なにを「密告」したと
言われているのか、中盤を過ぎてもさっぱりわからないし。

自分の心にもありそうな、生きるための、愛するための弱さを目の当たりにして、
爽快感がまったくないんですが、かえって、自然で、ほっとするような気もしました。

だれもが、それほどは強くはない。
将来の安定を求めて、右往左往している。だから、天下り先を探すためには、
警察官としての自覚や、かつての心の栄光を捨てる。

自分の思いを素直に表現できず、恋のライバルを蹴落とすような「密告」をしてし
まう。それによって、かえって人としてさげすまれ、恋人は去っていく。ライバルの
妻になっても家庭内の不和に入り込むように、もう一度寄って行こうとする。

恋人にしても、かつて自分から表現することもなかった。去っていったのは、許せ
なかっただけではなく、選んだ夫のほうが将来性があると思ったから。再会した
今も、寄ってくる男の気持ちを利用して、夫の浮気を調べさせる。そんな相手「あ
なたの優しさは昔と変わらないわね」と気を引くような事を言う。

警察と市長と団体との癒着、警察と記者クラブとの馴れ合いと、圧力のかけあい
による情報操作。

〔汚職の誘惑に負けない〕
どろどろな中で、輝く言葉がひとつありました。

密告者として警察から排除するために、無理やりだされた逮捕状を取り下げるよ
う頼むシーン。逮捕状があるままで、身の潔白を証明するには、事故目撃の偽
証言をした関係者のある人の過去をあばくことになる。

「あの女は、公金に手をつけたんだぞ。なぜそんなやつを庇おうとする。」
「彼女は警察官ではない。だが、あなたは警察官だ。自らの身を厳しく律しなけれ
ばならない立場にある。それだけですよ。」

そして、ストーリー全体で、敵意ある「密告」がどれほど本人につらく跳ね返って
くるのかが示されていました。

生きるすべにルールはありませんが、立場を知り、自らの身を厳しく律しなけれ
ばならないのは、だれもが同じではないでしょうか。

密告

密告

  • 作者: 真保 裕一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2001/07
  • メディア: 文庫


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「黒部の羆」雪山遭難現場での憎しみと生きる価値を体感 [読書(小説)]

真保裕一「灰色の北壁」(講談社)より、「黒部の羆」を読みました。

灰色の北壁

灰色の北壁

  • 作者: 真保 裕一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/03/18
  • メディア: 単行本

〔内容〕
二人の山登りエリート大学生、一人は後輩を危うく遭難させる失敗によって、ライバルの
世界遠征を見送る事になります。

失敗を機に恋人にも去られ、父親を無くした母親にせがまれ、山の生活も大学生活も捨て
去る覚悟をした主人公は、絶望のどん底で、最後の雪山にライバルを伴います。競争心は、
絶望によって敵意に、そして殺意にまで変わっていました。

そんな自分に気づき反省した瞬間、ライバルが怪我をし、言葉のやり取りの中で、実は
追い落とされたのだと知るのでした。

殺意が再びよみがえり、一人で脱出を図ろうとしたその時、元山岳警備隊で「羆」と呼ばれ
る山小屋管理人が、単独で救助に到着します。

一晩を3人で過し、二人の関係を察した「羆」は、自分の過去を語ろうとしますが、若い主人
公は、年をとった山男の癖だと、話を聞く耳をもちません。

ふもとから救助隊が到着した気の緩みで、今度は主人公が雪山を滑落してしまいます。

ようやく希望していた「絶望」の結果の死に辿り着いてしまったと、意識が薄れたかけたとき、
「羆」が雪崩の危険を顧みず、またもや単独で救助に降りてきたのでした。

〔感想〕
雪山と格闘するシーンは、映像を見るより体感するのに近いほど真に迫ってきます。
著者の「ホワイトアウト」でも感じましたが、作家の得意とするシーン表現です。

雪山遭難という命の極限で、相手に殺意を覚えつつ、第3者に助けられます。

自らの命を守ることもない行動は、山男のさだめか、本能か、いずれにしても、恨みを恨み
で返せば殺意になり、生きる希望で返せば、その希望は相手の心の中に深く根付き、
そして代々山男の、いや、人の間に受け渡されていくのでした。

悲惨な戦争が相次ぎ、復讐という名のもと殺人が繰り返されるこの世界で、生きる希望が
心を明るく照らす、「復讐と泣き寝入り」とちらとも違う心のあり方を、深く考えたくなる
テーマでした。


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心の「ボーダーライン」 [読書(小説)]

集英社文庫「ボーダーライン」(真保裕一)を読みました。時間が取れなかったので、しば
らくぶりで小説が読めて嬉しい!
本も入手してから、2ヶ月くらいそのままでしたので、ひとしおです。

〔内容〕
物語は、夢だけを追ってロスへ渡米した主人公サム・永岡が、ひょんな偶然から日本の
信販会社に雇われて私立探偵として暮らします。めったにない東京本社TOPから受けた
依頼は、写真の日本人青年を探してほしい、というものでした。

ところが、調べ始めると、その写真をとった人の行方が知れず、さらにきな臭い殺人の
話が、青年が行くどこにもついて回ります。地元の警察は、青年は握手でもするかの
ように人を殺すといいます。

メキシコ国境近い町で、予想外に早く会えた青年から、いきなり銃撃され、命からがら逃げ
帰りると、青年の父親と名乗る人物が現れます。父親は、青年を我が手にかけようと、
信販会社の関係会社重役を辞職して、アメリカまで追いかけてきたのでした。その思いを
綴った手紙を持って娘(青年の妹)まで現れて、父親を殺人者にしないよう、あらためて
依頼を受けます。会社を通した正式な依頼ではありませんでしたが、その手紙の心と、
娘の思いを知り、サムの上司関口も賛成します。

サムは結局間に合わず、父親は息子に銃口を向けたままはらはらと涙を流し、息子は
笑顔で父親の額に弾丸を撃ち込むのでした。

最後はサムが業務命令の範囲を越えて、単身息子グループのアジトに乗り込み、
復讐というより父親の思いを代わりに遂げようとして、銃口を向けますが、やはり
撃てずに、息子は遅れて来た警察に逮捕され、刑務所で死刑宣告を受けます。

残虐な息子に、それでもサムは父親の思いを告げようと、面会を申し入れ続ける
のでした。

ボーダーライン

ボーダーライン

  • 作者: 真保 裕一
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2002/06
  • メディア: 文庫

〔感想〕
この小説では、表向きなにも解決していません。父親は息子に撃たれて命を落し、息子は
刑務所に入っても人の痛みを感じることなく、自分に都合がいいように、同房の2人と警察
一人を怪我させて、望んでいた独房に入ります。

小説の中では、生まれた時からの悪人というのはいて、どんな教育や言葉でも、その性根
を変えられない、としています。しかし、人の痛みを知ることこそが、人としてのボーダーラインを
超えないか、戻ってこれるカギであると暗示している、と私は感じました。
主人公サムが、生まれ来る自分の子どもにも、そして前述の刑務所内の、自分に銃口を
向けた他人の息子にも、話し掛け続けようと考えたことは、そのことではないでしょうか。

息子が子どもの頃、父親は、なぜ虫を殺してはいけないかを、理屈で説明して、違う理屈
を、(この場合は隠れてやればいい、と)覚えてしまったかもしれません。
アメリカで、命をかけて、息子に伝えようとしたことこそ、父親として、あるべき姿であり、
サムは、そして私も、その姿に打たれました。


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就職延長を思い出す「午後の曳航」 [読書(小説)]

午後の曳航

午後の曳航

  • 作者: 三島 由紀夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1968/07
  • メディア: 文庫


古い小説ですが、「午後の曳航」(三島由紀夫・新潮文庫)を読みました。
〔きっかけ〕
「宮﨑勤事件」(一橋文哉・新潮文庫)の中で、宮﨑勤が読んでいたのを刑事が見て、「評価が低いがよい小説だ」といっていたのを見て、途中まで読んでほっといたのを本棚からだしてきました。

〔内容・メッセージ〕
横浜で高級輸入雑貨を扱う母と二人で暮らす13歳の少年は、母には内緒で「首領」をリーダーとしたグループにいて、「3号」と呼ばれています。

母は女で一つで父の残した店を切り盛りし、少年を育ててきました。あるとき、海の「男」とねんごろになり、一つの航海の期間を経て愛を育み、二人は結婚することにします。

「あなたのためよ」と母に言い含められ、少年は新しい「父」と握手をします。船乗りにはあこがれていた少年でしたが、船をおりて母の商売を手伝うことになり、突然に自分の家庭に入ってきたことに幻滅していました。また、ずっと母にかけられてきた自分の部屋のカギは、表面はもちろんいやがりながら、内心は少年にとって「子どもであること」の象徴でした。「父」がカギをはずす提案をしたのを聞いて、大人になることを強制されると、ひどくおびえました。おそらくは母親をとられるという男の子特有の感覚もあったのでしょう。

少年はここで反逆に出ます。一番初めに船乗りが家にきたときにみつけた「覗き穴」から、わざと母の部屋に光が漏れるようにして、そこに潜みます。気づいた母が寝入った少年を引きずり出して叩くと、「父」がやってきて穴を埋めようということを言って去っていきます。

その大人の分別くささに嫌悪し、「父」が船乗りを捨てたことに幻滅した少年が、グループに駆け込みます。このグループは、大人、とりわけ、父親を汚れた社会の象徴として憎んでいました。リーダーは、罪が問われる14歳になる前に、「父」殺害を提案します。少年達に誘われて人気のない山の上で、懐かしい海の時代の話をしながら、睡眠薬入りの「苦い」紅茶を飲んだところで、物語は終わります。

〔感想〕
小賢しさとはいくつもの選択肢ができることで、大人のしるしでもあることを、少年達は理解しているのではないでしょうか。また、夢ではなく現実を生きるための経済力や知力、体力といった「力」が身に付かないうちは、大人の世界は、とても汚い世界に見える。
同じ仕事でも、海の世界に生きるのは、相手にするのが自然だから、「きれい」に見えるのではないでしょうか。陸の商売だからこそ、少年は許せなかったのではないかと思うのです。それは、殺してしまいたいほどに。

14歳になる前にという知恵は「首領」が授けます。子ども社会から見た大人の社会の汚さ、不条理さを気味悪いほどに冷徹に語ります。少年は子どもと大人の間を揺れ動く存在として、そして「父」は大人の世界の中で、純粋な「海」と汚れた「陸」の間を揺れ動く存在として描かれています。

子どもに夢を与えらえられなくなった現代の大人に対する、こどもの警鐘かもしれません。こう言う私も、社会にでたくなくて、2浪して大学に入ったのに、さらに大学院に行って「就職延長」したフリーター感覚人間でした。けれどこの少年たちも、こうして魂を磨かれて、経験を身に付けて大人になっていくのではないでしょうか。そう願うばかりです。


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